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東京地方裁判所 平成7年(ワ)20785号 判決 1998年9月04日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

被告は、原告に対し、五七六万〇八二〇円及びこれに対する平成六年七月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、店舗を設けて電気製品等を販売していた原告が、被告の設置、管理する都道の排水設備に瑕疵があり、そこから雨水が溢れたため、原告の店舗が浸水被害を受けたと主張し、被告に対し、国家賠償法二条一項に基づく損害賠償請求をした事案である。

一  前提事実

当事者に争いのない事実及び後掲の証拠によれば、次の事実を認めることができる。

1 原告は、家庭電気製品、コンピューター機器等の販売を業とする株式会社であり、昭和六二年ころから、東京都町田市大蔵町二四一番地(別紙1の図面記載「原告店舗」の地点)にノジマ鶴川店(以下「原告店舗」という。)を設け、営業していた(争いない。)。

2 被告は、東京都町田市大蔵町地内の主要地方道世田谷町田線(以下「本件都道」という。)を設置及び管理している。原告店舗付近の本件都道は、北西方面(別紙1の図面記載「金井入口交差点」方向)から南東方面(同図面記載「鶴川駅」方面)に向けて緩やかな下り勾配になっている。

従前、本件都道の原告店舗より北西側部分には、道路北側に沿ってア-イ地点(右図面記載の記号を指す。以下、同じ。)に排水用側溝が設けられ、北西方面から南東方向へ右側溝を流下してきた排水は、同側溝の終端部(イ地点)に至り、そこから本件都道の下を横断するイ-ウ地点の横断管を流れて、道路南側のウ-エ地点の排水路に流入する構造となっていた。

被告は、平成六年二月ころ、株式会社石井工務店に対し、本件都道の拡幅工事及びこれに伴う道路排水整備工事等(以下、これらの工事を併せ、「本件道路改修工事」という。)を請け負わせた。本件道路改修工事において、本件都道の道路排水設備は、右ア-イ地点の排水用側溝を撤去して、北西方面から流入する道路排水が、オ-カ地点の街渠又は管渠を通り、カ地点の街渠枡を経て、b、a部分の横断管へと流入した上、ウ地点の街渠枡を経て、ウ-キ地点の接続管及びキ-エ地点の暗渠(ボックスカルバート)を通り、南東方面の側溝へ流れるよう設計された。石井工務店及び同工務店から下請負又は孫請負した請負工事業者ら(以下、これらの請負工事業者を併せ、「本件請負工事業者ら」という。)は、同年三月ころから同年七月ころにかけて、本件都道を、一部歩道のない片側一車線、幅員約九メートルの道路から、両側に歩道を設けた片側一車線、幅員二〇メートルの道路に拡幅整備した上、これに伴う道路排水整備工事等を順次実施した。そして、同月一二日ころには、本件改修工事の一環として、b、a部分の横断管の取替工事が行われていた(以上、本項について、《証拠略》。被告が、本件都道を設置及び管理していたこと、石井工務店に対し、本件道路改修工事を請け負わせたことは、争いない。)。

3 同月一二日午後五時ころから午後六時三〇分ころまで、本件都道付近において、一時間当たりの降水量(最高)六一ミリメートル、一〇分当たりの降水量(最高)二一ミリメートルの豪雨(以下「本件豪雨」という。)が降り、その際、雨水が原告店舗の半地下式駐車場兼商品保管倉庫(以下「本件商品保管倉庫」という。)へ流れ込み、原告店舗は床面五〇センチメートルの高さまで浸水した(以下「本件浸水被害」という。)。本件商品保管倉庫は、本件都道北側歩道との境界付近に設けられたスロープ部分を出入口としており、右境目は路面よりも若干盛土がされ、カマボコ状になっており、道路面の雨水が本件商品保管倉庫へ流入することを防いでいる。また、原告は本件商品保管倉庫に排水ポンプを設置しており、従前も、本件商品保管倉庫に水が流入したことはあったが、排水ポンプの作動により、原告店舗が浸水したことはなかった(《証拠略》。本件豪雨が降ったことは、争いない。)。

二  争点

1 本件都道に原告主張の瑕疵が存するか否か

2 右瑕疵と本件浸水被害との間の因果関係の有無

3 損害額

三  争点に関する原告の主張

1 本件都道の瑕疵(争点1)について

(一) 街渠枡と横断管の接続の不存在等

本件請負工事業者らは、本件豪雨当時、カ地点の街渠枡とイ地点との間に仮接続管を設置するなどして同街渠枡とb部分の横断管を接続していなかったか、又はa部分の横断管の取替工事終了後、b部分の同工事開始までの間、十分に排水の流通が確保できるような方法を講じていなかった。

したがって、本件都道の排水設備には、北西方面から、オ-カ地点の街渠又は管渠を通り、カ地点の街渠枡に流入した道路排水の流通が確保されていなかったという欠陥があった。

(二) 仮接続管又は横断管の排水能力の欠如

仮に、右街渠枡と右横断管が適切に仮接続されていたとしても、本件都道は、道路拡幅工事により、幅員約九メートルから二〇メートルに拡幅され、オ-カ地点の街渠又は管渠に流入する水量は少なくとも約二倍になっていたにもかかわらず、カ地点の街渠枡とb部分の横断管を接続する仮接続管又はa若しくはb部分の各横断管は、倍増した水量を排水し得る能力を欠いていた。

2 因果関係(争点2)について

オ-カ地点の街渠又は管渠を通ってカ地点の街渠枡に流入した道路排水は、本件豪雨の際、同街渠枡から溢れ、原告店舗の都道側に設置されたスロープから本件商品保管倉庫へ流入し、前記一3記載のとおり、同倉庫を浸水させた。

3 損害額(争点3)について

(一) 商品全損による損害

計五二六万〇八二〇円

本件商品保管倉庫の浸水により、同倉庫内に保管されていた別紙2「損害一覧表」記載の商品が全損し、原告は、標記のとおり、商品価格合計額相当の損害を被った。

(二) 弁護士費用 五〇万円

四  争点に関する被告の主張

1 街渠枡と横断管の接続の不存在等(争点1)について

本件請負工事業者らは、平成六年四月中旬ころまでに実施されたカ地点の街渠枡の設置工事の際、同街渠枡とb部分の既設横断管を口径二五〇ミリメートルの仮接続管で接続した。また、本件請負工事業者らは、同年七月一一日午前九時ころからa部分の横断管の取替工事を開始し、新しい横断管をb部分の既設横断管に接続して翌一二日午前六時ころには右工事を完了し、本件豪雨の際には、残るb部分の横断管の取替工事を開始していなかったから、カ地点の街渠枡に流入した道路排水は、b及びa部分の横断管を通り、本件都道南側の道路排水設備へ流出する状況にあった。

2 仮接続管又は横断管の排水能力(争点1)について

道路拡幅工事前、排水用側溝終端部(イ地点)に流入する水量(流出量)は、都道の設計基準降水量である一時間当たりの降雨量五〇ミリメートルで一秒当たり〇・〇四五八立方メートル(最大)であり、右拡幅工事後、カ地点の街渠枡における流出量は、同じく一秒当たり〇・〇四五六立方メートル(最大)であって、各流出量は、右拡幅工事により本件都道が約二倍に拡幅されても、ほぼ変化がない。

カ地点の街渠枡とb部分の横断管を接続する仮接続管の口径は二五〇ミリメートルであり、新設のa及び既設のb部分の各横断管の口径は、いずれも三〇〇ミリメートルであって、一時間当たりの降雨量五〇ミリメートルで、一秒当たりの最大流下量(排水管の最大排水量をいう。以下、同じ。)はそれぞれ〇・〇五五七立方メートル及び〇・〇九二三立方メートルであるから、右仮接続管及び右各横断管は、いずれもカ地点の街渠枡における流出量を賄うに十分な排水能力を有する。

3 因果関係(争点2)について

原告店舗の北側には市道を挟んで開水路があり、その北側は丘陵地帯となっていたところ、本件商品保管倉庫の浸水は、都道の設計基準降水量を超えた希有な豪雨により、右開水路から溢水した雨水が、市道を越えて、原告店舗北側にあるスロープ状の進入路から本件商品保管倉庫へ流入したために生じたものである。

したがって、原告主張の本件都道の瑕疵と本件浸水被害との間には、そもそも因果関係が存しないものというべきである。

第三  争点に対する判断

一  道路排水整備工事の概要及び本件降雨時の状況等

前記前提事実、《証拠略》によれば、次の事実を認めることができる。

1 本件請負工事業者らは、平成六年三月中旬ころから同年四月中旬ころにかけて、ア-イ地点に設置されていた排水用側溝を撤去した上、オ-カ地点において、地中に管渠及び地上に街渠を設置し、また、オ、カ及びク地点に街渠枡を各設置した上、カ地点の街渠枡中に排水ポンプ(排水量一分当たり〇・一立方メートル。本件道路改修工事の完成時まで設置されていた。)を設置した。

そして、本件請負工事業者らは、同年四月中旬ころ、右街渠枡と右横断管を長さ約一・四メートル、口径二五〇ミリメートルの塩ビ製仮接続管で接続した。

2 本件請負工事業者らは、同年六月下旬ころから同年七月上旬ころにかけ、ウ-エ地点に設置されていた排水溝を撤去した上、キ-エ地点に内径八〇〇ミリメートルのボックスカルバートを設置して、口径三〇〇ミリメートルのコルゲートパイプで、南東方面の開渠へ接続した外、ウ地点に街渠枡及びウ-キ地点に口径三〇〇ミリメートルの接続管をそれぞれ設置した。

3 本件請負工事業者らは、同年七月一一日午後九時ころから翌一二日午前六時ころにかけ、a部分に設置されていた横断管南半分の取替工事(横断管の口径は、工事の前後とも、三〇〇ミリメートル。)を実施した上、新設のa及び既設のb部分の各横断管を口径二五〇ミリメートルの塩ビ製仮接続管を各横断管にモルタルで接着させる方法で接続した。

その際、仮接続部分から流水が漏出して地盤を軟弱化させることを防止するため、前記排水ポンプを作動させ、カ地点からホースで原告店舗前の本件都道のV字溝方向に排水を行っていた。

4 本件請負工事業者らは、同月一二日午後五時ころ、本件都道南側の歩道上で、境石及び植樹帯縁石の据付け工事を行っていたところ、急に雨が降り始め、しばらくして雨が激しくなったので、右作業を中止し、現場の巡回、点検を行った。第一回目の巡回においては、本件都道は冠水していなかったが、第二回目の巡回においては、原告店舗北側の開水路が溢水し、北側市道が約一〇センチメートル冠水しており、本件都道も歩道の縁石の高さまで冠水し、カ地点の街渠桝は水没していた。原告店舗には、北側の市道と本件都道の双方から水が流れ込んでいた。雨は同日午後五時四〇分ころには小降りになり、午後六時三〇分ころには上がった。

5 本件請負工事業者らは、同日午後九時ころから翌一三日午前六時ころにかけて、b部分に設置されていた横断管北半分の取替工事(横断管の口径は、工事の前後とも、三〇〇ミリメートル。)を実施した。

《証拠略》中には、本件豪雨が上がって間もなく、本件請負工事業者らの現場作業員の一人が原告の取締役三枝達実に対し、「明日ならちゃんと通っていたのにな。」と述べ、あたかも本件豪雨当時、右横断管が開通していないことを認めるような発言をしたとする証言ないし供述記載部分が存する。しかしながら、その発言内容自体抽象的で、具体性がない上、同証人は、他方において、本件工事現場の排水の通りが悪いから本件浸水被害が生じたのではないかとする同証人の発問に対し、現場責任者がこれを否定する発言をしたとも供述しているのであって、このような事実に照らすと、前記証言ないし供述記載部分は、にわかに採用することができない。

二  街渠桝と横断管の接続の不存在等について

1 右一1認定のとおり、本件請負工事業者らは、同年四月中旬ころ、右街渠枡と右横断管を口径二五〇ミリメートルの塩ビ製仮接続管で接続したものと認められる。

この点、原告は、本件請負工事業者らが、カ地点の街渠枡の設置工事の際、同街渠枡とb部分の横断管を仮接続しなかったと主張する。しかしながら、右一認定のとおり、本件請負工事業者らは、同六月中旬ころまでに、オ-カ地点の街渠及び管渠の設置工事並びにカ地点の街渠枡の設置工事を終えており、同街渠枡の設置工事終了の時点で、本件都道北側の道路排水設備は、北西方面から流入する道路排水が、オ-カ地点の街渠又は管渠を通り、カ地点の街渠枡に流入し、b、a部分の横断管を経て、本件都道南側へ流出する構造となっていたことは、明らかである。

また、原告は、右街渠枡と横断管と仮接続されていて、排水が遮断されずに流通していたとすれば、あえて、右街渠枡に排水ポンプを設置する必要性はないはずであり、右排水ポンプは遮断された排水の流通確保のための代替措置であると主張する。しかしながら、道路排水は、常時、流通を確保される必要があるから、請負工事業者らが、道路排水設備工事等のため、一時的にその流通を遮断することはあっても、長期間にわたりこれを放置するとは通常考え難いものである上、カ地点の街渠枡中に設置された排水ポンプは、右仮接続部分から少量漏出する水によって付近の地盤が軟弱化することを防止するため、設置されたものであることは、《証拠略》に加え、排水ポンプの前記排水能力をも考慮すれば、容易に認められるところであるから、本件請負工事業者らが、道路排水の流通確保のための代替措置として、右排水ポンプを設置したものと認めることはできない。

以上の点を鑑みると、本件請負工事業者らが、カ地点の街渠枡の設置工事の際、同街渠枡とb部分の横断管を仮接続しないまま放置したとは到底認め難く、原告の右主張は採用することができない。

2 さらに、原告は、a部分の横断管の取替工事終了後、b部分の同工事開始までの間、十分に排水の流通が確保できるような方法が講じられていなかったと主張する。

しかし、前記一認定の事実のとおり、本件工事請負業者らは、平成六年七月一二日早朝に横断管取替工事を中断するに当たり、a部分の横断管とb部分の横断管を口径二五〇ミリメートルの塩ビ製仮接続管で接続していたのであるから、本件豪雨当時、適切に排水の流通を確保していたものといえる。

なお、a又はb部分の横断管取替工事の際に、カ地点の街渠枡から右仮接続管に流入する管口を一時的に塞ぐ必要のあることは、容易に推認し得るところであるが、前記認定のとおり、a部分の横断管取替工事は同月一一日午後九時ころから翌一二日午前六時ころにかけて、b部分の横断管取替工事は同日午後九時ころから翌一三日午前六時ころにかけて、それぞれ実施されているのであって、その他、本件豪雨の際、右管口の遮断を必要とする工事が行われたことを認めるに足りる証拠もない。

3 以上のとおり、街渠枡と横断管の接続の不存在等をいう原告の主張は理由がない。

三  仮接続管又は横断管の排水能力について

1 《証拠略》によれば、被告は、降水量一時間当たり五〇ミリメートルをもって、都道の設計基準降水量とし、これを基に、道路排水設備の流下量が当該排水管の最大流出量に対し二〇パーセント以上の余剰を有するよう、道路排水設備を設計すべきものと定めていたこと、カ地点の街渠枡における最大流出量は、降水量一時間当たり五〇ミリメートルを基準として算出すると、一秒当たり〇・〇四五立方メートルであること、本件豪雨時におけるカ地点の街渠枡とb部分の横断管とを接続する仮接続管並びにa及びb部分の各横断管の口径は、前記認定のとおり、それぞれ、二五〇ミリメートル及び各三〇〇ミリメートルであり、右仮接続管の最大流量は、一秒当たり〇・〇五五七立方メートル、右各横断管の最大流量は、一秒当たり〇・〇九二三立方メートルであること(なお、a及びb部分の各横断管を接続する仮接続管も、口径二五〇ミリメートルであり、その最大流量は、一秒当たり〇・〇五五七立方メートルである。)右によれば、カ地点の街渠枡とb部分の横断管を接続する仮接続管の排水能力は、最大流出量に比し約一二三パーセント、a及びb部分の各横断管の同能力は、約二〇五パーセントであり、いずれも相当余剰の排出能力を有していたこと、にもかかわらず、本件豪雨は、前記第二の一記載のとおり、一時間当たりの降水量(最大)六一ミリメートル、一〇分当たりの降水量(最大)二一ミリメートル(これは一時間に換算すると一二〇ミリメートルにも達する。)と、都道の設計基準降水量をはるかに超えた著しく激しいものであったこと、そのため、本件都道の排水設備の排水能力を超える流水が発生し、本件浸水被害をもたらしたものであること、以上の事実が認められる。

2 ところで、道路排水設備は、下水や雨水等の排水が道路に滞留し、道路の効用を妨げる事態が生ずることを避けるために設置されるものであるところ、その設置の目的に照らすと、一般的には、排水が溢れ、これが道路及び付近の土地へ浸水することがないような構造、容量を備えていることが必要というべきである。しかしながら、道路排水設備は、道路の付帯設備という性質を有するものである上、降雨という自然現象に対する対応能力を必要とするばかりでなく、その設置場所、設置方法、予算等種々の制約が存在するから、少なくとも、その容量に関する限り、当該道路の設置、管理者の容量に関する設計基準そのものが通常の降雨に対応できずに道路がすぐに冠水してしまうような不合理なものである場合は格別、そうでない以上、右設置基準に適合した設置であれば、通常有すべき安全性を有するものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、被告の都道の道路排水設備の設計基準それ自体が不合理であるとの主張、立証はなく(被告の設計基準に従って設置された他の都道において、冠水事故が頻発しているなど、右設計基準自体が不合理であることを窺わせる事情は存在しない。)、本件仮接続管及び横断管は、被告の右設計基準を満たすものと認められるから、右各道路設備が通常有すべき安全性を欠いていたものとはいえない。

3 これに対し、原告は、本件都道の拡幅工事により、カ地点の街渠枡に流入する水量は少なくとも従前の二倍になるから、本件仮接続管及び横断管は、倍増した水量を排出する能力を有しなければならないところ、これを欠いていたと主張する。

しかしながら、《証拠略》によれば、道路の排水設備を設計するにあたっては、道路部分の流出量だけではなく、隣接する民有地等も流域面積に含め、そこからの流出量も合算する上、その際、地表面の状況に応じた流出係数を使用して流出量を算定するのであるから、道路幅員が二倍になるからといって、直ちに道路排水設備に流入する雨水量が二倍になるということはいえない。したがって、原告の主張はその前提を欠くものといわなければならない。のみならず、右証拠によれば、本件工事施工前の本件都道北側側溝の終端部(イ地点)と本件豪雨時のカ地点の街渠枡における流出量は、降水量一時間当たり五〇ミリメートルで、それぞれ一秒当たり〇・〇四五八立方メートル、〇・〇四五六立方メートルであると認められ、両者はほぼ等しいのであるから、原告の前記主張は採用できないものというべきである。

四  争点1に関するまとめ

以上検討のとおり、本件都道の道路排水設備が通常有すべき安全性を欠いていたとは認め難く、したがって、被告の本件都道の設置及び管理に瑕疵があったということはできない。争点1についての原告の主張は、結局理由がない。

五  結論

よって、原告の本件請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がないから、棄却を免れない。

(裁判長裁判官 小磯武男 裁判官 太田晃詳 裁判官 高島義行)

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